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朝は来る。
世界は、そういうふうに出来ている。




Heavenly Blue


「ルフィ」
賞金額を無駄にぐいぐい上げながらまっすぐ進む船長は、いつもどおり羊の上に居た。
「んん?サンジか」
「あァ」
話しに来たぜ。昨日の夜の、答えを。
すとんとメリーの傍らに腰を下ろす。ルフィとは、ちょうど背中合わせ。
しばし、沈黙。クルー達は中に引っ込んでいるのか、まだ日が一番高くなる前だというのに甲板には誰の姿も見えない。
「あのな。…やっぱ、俺の夢はオールブルーだ」
オールブルーが天上の青だったことは確かにサンジにとってショックだった。
確かに夢は失われた。そう見えたし、思えた。けれど。
考えて考えて出た答えは、どうしても自分はその青を諦められないということ。

だって在るのだ。

その青に抱かれるのはこの生が終わったその後。でも在る、きっと。
死後の世界を信じるかどうかとか、魂の存在がどうだとか、そういう問題でなく。
この世界に生まれた、総ての生命の還るその海。
「だから、俺の夢が叶うのは一番最後になる」
夢を叶えるのは夢を抱く自身のみ。だからこそ、サンジは最後まで見届けたいと思う。
「お前らの夢、全部見届けてやるって決めた。それが終わってから」

何年掛かるかわからない。
これから先、時間は長く短い。何が起こるかもわからない。 ましてや、このトラブルに突っ込んでいくのが得意な太陽の下に集っているのだから余計に。それでも。
―――見届けて、そして。

「それから、いくよ」
「そうか」
「あァ」
「判った」
「俺は、降りねェ」
「? 当たり前だろ」
さも当然のように返ってくる言葉達が心地よい。
「だっておめぇ、俺のコックなんだぞ」
海の向こうに頭を向けたままししし、と笑う声を聞いて。
「生きろよ、サンジ」
「…ルフィ?」
いつもと変わりない筈の船長の声が耳に届く。高くは無いが低くも無い、少年の面影を残した声。
「俺は海賊王になる。ゾロは、世界一の剣豪になる。俺の剣士だ、間違い無ェ」
「そうだな」
「だから生きろ、サンジ」
何があったとしても。
オールブルーでクルー達に腹一杯になるまで美味しい料理を振舞うことが夢だと言うのならば。
生きて、最後まで見届ける覚悟を決めたと、そう言うのならば。
「前にも言ったことあるけど、勝手なことすんな。そんで、死ぬな」

「俺達の中の誰よりも長く生きろ。絶対だ」

この言葉の重さに自分はいつまで耐えられるだろう。判らない。でも。
「…了解。善処するぜ、キャプテン」
思わずもれた笑いと共に答えを返すと、ルフィもまた笑った。
ぐいん、と伸びたゴムの腕がサンジの目の前に伸ばされる。
握ったり開いたりを数回繰り返した後、平手はべしりとサンジの丸い頭を叩いた。
理由は判っているので、サンジも何も言わない。
「ナミ、泣かすんじゃねェぞ」
「…悪ぃ。次は無ェ」
「当たり前だ。ぶっとばすぞ」
声はいつもどおり。でもきっと、顔は絶対ェ笑ってないんだろうなぁと思いながら、この未来の海賊王にきちんと想われている航海士のことを考えるとへらりと顔が緩んだ。
誰よりも敬愛する彼女だから、どうか幸せになって欲しい。
ルフィは確かに馬鹿なゴム人間だけど、大切なものとそうでないものをよく知っている。
だからきっと、大丈夫。

「サンジぃ」
「あァ?」
「腹減った―――!なんか食わせろっ」
「…テメェ二時間前にたらふく飯食っただろうがこのクソゴム――――ッ!」
サンジは、まとわりつくゴム人間を力いっぱい蹴り飛ばした。
もちろん、海には落ちないように。





そうしてまた、時間が動き始める。
―――ひとつの終わりに向けて。





2005/02/09


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