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金色夢想


見つけた、と思った。
何をなんて知らない。ただ、――見つけた。


***



きんいろがうーうー唸りながら大男の腕に貼り付いている。
「こいつのこと、殴るんじゃねぇ!謝れよっ」
黙ったまま表情をくるくる変えていたやつが、今目の前で物凄い悪口雑言を並べ立てながらそのへんのガキならひと睨みで失神しそうな人相の大人をげしげし蹴っている。
自分をこの男から庇ってくれている、というのは判る。
判るが、それだけだ。それ以外の状況が全く飲み込めない。
「放せサンジ!」
「うるせぇ!もうてめぇの作ったメシ食わねェぞ、それでもいいのかっ!」
きんいろのその言葉に、大男――パティがぐっと詰まり。
振り上げられていた拳をそっと下ろした。
それを見て、ほう、とサンジが小さく息をつく。
「こいつは。…俺に、痛いことなんてひとつもしてねぇ。大丈夫なんだ、パティ」
「…サンジ」
ぎゅう、ときんいろが小さな身体でかがみこんだパティの身体に抱きつく。
大丈夫なんだ、と何度も繰り返しながら。
ぽんぽんとパティの肩を叩いて、きんいろが大男から離れる。
「家戻ってろよ。俺もすぐ、帰るから」
「…」
「ごめんな、勝手に抜け出して」
「いや。早く、帰って来い。…すまなかったな、緑の子」
後半の謝罪は自分に宛てられたものだと気付いたのは、パティが店へ向かいこちらに背を向けてからだった。
痛みは既に引いている。自分も頭だけ、黙って下げた。
「…なんだったんだ?」
呟くと、直ぐ側できんいろが溜息をついた。
「あー… あいつ、パティってんだ。レストランの、クソコックのひとり。
 俺の、まぁ、家族みたいなもん。住み込みだし」
背伸びをしたきんいろが、俺の頭にそっと触れる。
「痛ェ?ごめんな、うちのクソコック、揃いも揃って図体でけェくせにすげー過保護でさ」
「カホゴ、ねぇ」
意味の方は実際良くわからなかったが、あのオヤジがきんいろのことを心配していたのだけは判った。
だから、悪い意味じゃないのだろうと思う。
「お前、喋れんだな」
「え?」
「口、利けねぇのかと思った。最初」
んなことあるかよ、と呟いてきんいろが笑った。
ふわりと金色が揺れる。
それから少しだけ目を伏せて、
「世の中にはな、いろいろあんだよ」
と小さく呟いた。
このきんいろは、笑ってるのが一番いい。でも。
こんな、泣きそうな笑い方は、いやだな――――
「俺は、サンジ。さっきあのクソコックがさんざ叫んで回ってたから判るか?小4だ」
「…小4?」
「文句あるか?そりゃおれは小せェ方だけどよ」
「じゃあいいんじゃねぇの。俺はでかい方だ」
「は?」
「ゾロ。ロロノア・ゾロ。小4だ」
「…マジかよ」
あんぐりとアホみたいに口を開いて、サンジはゾロを見た。
そして次の瞬間、悔しそうな色を浮かべる。
「くっそ、ぜってェ追い抜いてやる」
「おお、頑張れ」
ぺち、と小さく丸い頭を叩いてやると、サンジが下のほうからぎらりと睨み上げてきた。
が、すぐに破顔する。
「じゃあな、ゾロ!」
ぱたぱたと明るい店に向かって走っていくサンジをきちんと見送ってから、元来た筈の道を辿る。
近所でよかった。――どうにか帰れそうだ。
ぶらぶらと胴着の入った袋を揺らしながら歩く。
今日からあの店が家だと言っていたから、サンジは昨日あたりが引越しだったのかもしれない。
ゾロは校区のことはよくわからなかったが、これだけ自分の家と近ければきっと同じ学校になるなのだろうな、と思う。
今週のうちか、来週にでも転校してくるのかもしれない。
ふと、最初の泣き顔が浮かんだ。
あいつは何故泣いていたのだろう。
いつか、その理由を聞けるだろうか。

ふと、空を見上げる。
薄暗い空に、光る月。
「…きれいだな」
本当に、久しぶりに。
ゾロは、その言葉を口にした。








2005/02/06
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