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夢を乗せた船だと、そう言ったのは誰だったろうか。



Heavenly Blue


予感はあった。
小さい頃から、伊達に憧れて夢見ていたわけじゃない。
サンジが学び、身に付けた言語の数は、きっと聡明な考古学者や努力家である航海士には及ばなくても、ちょっとしたものだ。 もちろん、それは料理に関するさまざまな本を解読する為でありオールブルーに関するあらゆる文献を読み漁る為でもあった。
どちらの目的が先だったのか、それはもう覚えていない。
気がついたときには料理はサンジの総てであり、『オールブルー』はサンジの胸の中に在ったからだ。
ゼフと共に在ろうと思っているときでさえもその夢を捨てたわけではなかった、決して。
いつか、いつか。でも今はその時ではないからと。
そうして、押さえ込んで。
そんなサンジの背を押したのはあの明るい船長と、そして野望の為に生まれてきたような剣士。
バラティエでの戦い。叫び。思い。夢。
とくり、と胸が自然高鳴った。
夢を追おうと思ったのだ。
そして、彼らの夢を叶える瞬間を見たいと思った。
たとえその先にあるのが、自分のそれが消える瞬間であるかもしれなくても。

***

洗い物をする水の音と、少しの石鹸の香り。
夕食を終えた船室に、皆が思い思いの場所に陣取っている。
ウソップはウソップ工場で新しい武器の試作をしているし、チョッパーはそれをロビンに借りた分厚い本片手に覗き込んでいる。
ナミとロビンはめずらしく女部屋には戻らず、テーブルに座り並んで雑誌を読んでいた。
ルフィは壁に背を預け座り込んでいるゾロに巻きつき、先ほどからしきりに遊べ!と強請っている。
ゾロ自身は珍しく目を閉じたまま相手をしていない。眠っているわけでもないだろうに。
いつもなら女性達は女部屋へ戻り、それ以外は皆後片付けの邪魔だと追い出されるのに、その日に限ってはそれが無かった。
きゅ、と水を止める音が響く。
「…っし、終了」
手を拭きながらほうと息を漏らしたサンジに、ナミが声を掛ける。
「お疲れ様、サンジくん」
「いえいえ。ナミさんロビンちゃん、今からお茶入れるからね~。お茶請けはスコーンでいいかな?」
「俺も、俺もっ!」
途端目を輝かせて纏わりついてきたルフィを足蹴にしながら、またちょっと笑った。
「うるせぇクソゴム、スコーンでお前の腹が落ちつかねェのは判ってんだよ。ちょっと待ってろ、作り置きのモン出してやる」
「うほー!」
お前らも要るだろ、と言われてウソップやチョッパーも笑って頷いた。ゾロは黙っている。
そうして女性達への給仕が終わり、クルー達全員に飲み物と菓子が行き渡ると、サンジは一本だけと断って煙草に火を点けた。
紫煙をくゆらせながらぐるりとクルー達を見渡せば、食後のごちそうさま以外沈黙を保っている剣士以外の皆サンジのほうを見ている。
ルフィはゾロの側から離れ、ナミの直ぐ後ろ辺りにべたりと座っていた。
ナミやロビンと向かい合うように席について、煙草を携帯灰皿に押し付け火を消す。
「どこから聞きたい?」
ぱたりと雑誌を閉じた航海士が、大きな瞳にサンジを映して言った。
「最初から」
サンジは少し長い話になるよと言ったけれども、それに対して誰も何も言わなかった。
沈黙だけが落ちる。
ルフィでさえも菓子に手を伸ばしていなかった。
底が無いのような真っ黒い瞳でこちらを見ている。
仕方が無い。
遺跡で、明日の夜に質問会をしようかと言ったのはサンジ自身だ。
そして現在このキッチンに、クルーの全員が集まっている。
…しあわせだなぁ、と思った。

「はじめてそれを覚悟したのは、十六の時だった」





2005/02/06


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