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"すべてはその青から生まれその青に還る"
"―――すべての青を統べる其の色の名は、天上の青"




Heavenly Blue


笑顔と共に、静かに流されるそれ。
そっと指先で拭ってやると、サンジはぱちぱちと目を瞬かせた。
「…あれ?」
掠れた声で呟いて、ゾロに掴まれていないほうの手でその頬に触れる。
そんな間にも、それははらはらと零れ落ちていく。
「なんで」
「泣いてるからだろ」
「俺、しあわせなのに」
どうしてだろう。
言った瞬間、サンジはくしゃりと顔を歪ませた。
それを隠すように少しだけ下を向いたが、ゾロはそっと手を伸ばして青い瞳に再び己を映させた。
「アホコック」
「うるせぇな、なんだよ」
「お前やっぱりアホだよなァ」
空いている手で金髪を梳く。潮風の為にほんの少しだけパサついた髪。
何の手入れもしていないのにあれは詐欺だわと、以前ナミがぼやいていたのをゾロは知っている。
「…なんでだよ」
片手でさらりとした感触を楽しみながら、細い腕を引き寄せた。
大切な料理人が大切にしている腕だから、力を込めすぎないようにして。
少し動けば額がくっつきそうな距離。酒と煙草の香りがふわんと鼻先をくすぐる。
「いらないこととは言わねェが、他のことばっか気にしやがって」
「はぁ?」
心底わからない、と言った様な表情を浮かべたサンジに溜息をひとつ落としてから、ゾロは席を立ち今度はサンジの隣に腰を下ろした。 濡れたままの頬に再び手を伸ばす。
「え?…なに、なんだ」
『喋る時には、特に大事なことを伝える時には相手の目を見なさい』
チラリと頭を過ぎったのは、遠い故郷の師匠の教え。
「いいか?」

「他の心配なんかしてんじゃねェ」
「何の為の仲間で、…俺なんだ」
「お前が悲しいと思えばそう言えばいいし、苦しいと思うなら苦しいと言えよ」
「あいつらが泣いた理由がわかるか?」

―――可能性はあったのだと、夢を失いながらも微笑む仲間を見て。
「お前が泣かないからあいつらは泣いたんだ」
お前が、『あったこと』だけを淡々と告げて、何も言わないから。
その心に沁み込ませるように、ゆっくりと言葉を送る。
ゾロは言葉を扱うのがあまり得意ではないから、きちんと届くようにと願いながら。
優しい、優しいクルーたちのその思い。
…ぽとりとひときわ大きな雫がサンジの手首を掴むゾロの腕を濡らした。
「しあわせ、だって」
思ったのは、ほんとう。ほんとうなんだ。
言って、初めてサンジはゾロから視線を外した。ゾロもそれをゆるした。
「だから笑ったんだ」
「ああ」
「オールブルーのこととか、本当に、覚悟はしてたんだぜ。してたけど、でも覚悟してるうちは本当じゃないってことなんだよな」
…後からキた、と俯いたまま小さな声でサンジは続ける。
「ポーネグリフだっけ。その、彫られてる文字指で辿りながらさ。冷てェなぁとしか思わなかったんだ、あの時。それからなんか、真っ暗になった感じがした。足元も手元も何も無ェ。そんな感じ?
それ以外なんもわかんねェからよ、笑うくらいしか無かった。…お前にも何も言えなかったし」
「ああ」
「わかんねェんだ。…でも」
とん、と金色の小さな頭がゾロの肩口に押し当てられた。
シャツは直ぐに涙を吸い上げ、しっとりと湿る。
ゾロがそっと背中に手を回してもサンジは何も言わなかった。
「泣きたかったんだな、俺。それはわかった。哀しいのか、つらいのか、わかんねェけど」
「そうか」
「おう」
「泣け」

…ありがとう。

それだけ小さく呟いて、ゾロに抱き込まれたまま明け方近くまでサンジは泣いた。





2005/02/06


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